第5回公演 「とある晩餐」

《終演後のご挨拶》

2015年 8月22日(土).23日(日)

またひとつ、夢が叶いました。

 

甘党プロデュース♯5 「とある晩餐」 無事、終演。

出演者、スタッフ、お手伝い頂いた皆様、支えてくださった家族友人、

そしてご来場頂いたお客様、感謝いたします。

 

多くのお客様から「あらすじの答え合わせをしたい」

というお声を頂きました。

お客様に伝わらない構成に猛反省ではありますが、

「終わった後に興味を持って頂けるのは有難いな」と、

いっそのこと開き直ってポジティブに考えることにしました。

去年なら恥ずかし過ぎて絶対にしませんでしたが、

この度初めて、舞台のあらすじをテキスト化いたしました。

これが、アラサーというものです。

 

もちろん、全ての意味合いは含んでおりませんし、

そもそも出演者に渡した時点で私だけの意味ではなくなっています。

「自分の解釈と違う!」と思われたならそれが正解ですし

「自分が予想したあらすじの方がよい!」と思われたなら

是非教えて頂きたいです。

ここまで言っておいてなんですが

「自分で考えたいから読みたくない」と思われたなら、

なんだか1番嬉しいです。

 

でも あくまで ひとつの解釈として お目通し頂けますと幸いです。

拙い文章ではございますが、

テキスト版の晩餐を、どうぞお楽しみくださいませ。

 

 

※これは、決起会時、出演者及び関係者に配った

 「とある晩餐」のプロットを舞台仕様に書き直したものです。

※4000文字弱ありますので、眠気覚ましにガムやコーヒーなどを

 お供に読まれることをおすすめいたします。

 

 

2015年8月28日 主宰 出下真紀




甘党プロデュース♯5 『とある晩餐』

あらすじ



とある映画館 その日上映される最後の映画が終演しました


通路を挟んで座っていた 男と女

偶然が重なりあい 男と女は恋に落ちました


2人は、本が好きでした


の夢は、自分が書いた文章を本にして 世界中の人に読んでもらうことでした
夢を話す女の目は いつもキラキラ輝いていました
男はそれを読みたいと思いました


男の夢は、自分が書いた文章を本にして 大切な人に読んでもらうことでした
それは、幼いころからの夢でした


でも、その話はしませんでした


女に出会い、女の話を聞き 女の輝く目を見て
女の文章を読んだときに 
男は自分のそれに自信をなくし
女と同じ夢を持つ自分を 恥じるようになりました


時がたち、夢を追う女と その後を追う男の間に
少しずつ、少しずつ すれ違いが生じました



ある日、 男の家の電話が鳴りました
受話器の向こうから 明るい女の声が聞こえてきました


「小説を書いているの。まだ途中なんだけど、読んで感想を聞かせてくれない?」


男は、息苦しさを感じ その頼みを断りました
女は男に対して 初めて怒りを表しました
男は、一方的に電話を切ってしまいました



それが 男と女の最後の会話でした。




それから数年後

男の誕生日前夜 男がバーで酒を飲みながら本を読んでいると
友人たちが男を励まそうと祝いに訪れました


男は、女を忘れようともがいていました

友人たちの騒ぎがうっとおしくなり、逃げるように店を出て家に帰りました

帰宅後、時計の針が0時を指したとき 男の後ろで声がしました


「久しぶり やっと会えたね ずっと待っていたんだよ」

その子は男の知らない子でした


「悪いけど 今日は1人にして欲しいんだ」


その子は言いました

「忘れちゃったの? 約束したのに ずっと待ってたのに」


「約束? 何のことだ?」

「〇歳になったら、僕を叶えるって 約束したでしょ?
 僕、今日、君に会えるのを、ここで、ずっと、待っていたんだよ」



その子は、幼いころに、男が持った「夢」だと言いました

夢は、男が願った日から今日まで 男を信じて待っていたと言うのです

夢のキラキラ輝いた目が何かを思い出させ 男は息苦しさを感じました


(この子の目には自分はどう映っているんだろう)


「申し訳ないけどその約束、忘れてしまったんだ だから、帰っておくれ」


夢の目の輝きが、消えました

「そんな!信じてたのに!約束したのに! 僕は、まだ、死にたくないのに!」


夢は、男を軽蔑した目で睨みました
男は、夢から顏をそむけました

夢は家を飛び出しました


「・・・・死ぬ?」

男は、その言葉が気になり夢のあとを追いかけました
追いかけないと、何かを失ってしまうような気がしたのです

光が集まっている場所を見つけ、男は力を振り絞って走りました


そこに 夢が立っていました


「おい!!」

夢が男に気付きました

夢は驚き、泣いているように笑いました


「待ってくれ!!!」

男は叫びました


夢は目をキラキラと輝かせ男に向かって叫びました

「乗って!!!!」


空の上が強く光ったと思うとその光は夢をさらっていきました

男は必死でその光にしがみつきました

光はスピードをあげ2人を空の彼方へ連れ去っていきました


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着いた場所には目をキラキラと輝かせた 「夢」が たくさんいました


「ここは、どこなんだい?」

「ここはね、 生き物が願った夢が生まれる場所だよ 
 誰かが夢を願ったら僕らが生まれて ここで、約束の時間がくるのを待っているんだ
 

大きい夢もあれば 小さい夢もあるよ
 叶う夢も 叶わない夢も 忘れ去られた夢も 忘れられない、夢も・・・

あ、こっち! 案内するよ!」


男は、大きな門の前に連れて行かれました


「これ、僕の夢です」

夢は、門番に男をそう言って紹介しました


「それはそれは、おめでとう」

門番は答えました


夢が生まれる場所は とても美しく色鮮やかな世界でした


「おいでよ!」
「みてみて!」
「僕、輝いているだろ?」
「私がどんな夢かきいて!」


出会った夢たちは男に手を伸ばしました
しかしそれは、男を受け入れるためのものではなく 夢を持たない男を責めるように感じました


「苦しい・・・」

男はかつて愛した女が、ここにいる夢たちと 同じ目をしていたことを思い出しました。


ひとりの夢が虹色に輝く望遠鏡を覗いていました


何を見ているの?」

男が尋ねました


「これはね 私を願ってくれた人間を見ているの
 私たちは何もしてあげられないけれど いつも、こうやって見守っているのよ

 あなたには、何が見えるかしら」


男は、渡された望遠鏡を恐る恐る覗きました

そこには幸せそうに本を読む女の姿が見えました

男は思わず目を背けました


「今のは・・・」


そこに、男を連れてきた夢が走ってきました

「どこにいたの!? 僕から離れないで!」


男は夢に連れられエレベーターに乗り込みましたが
誤って目的とは違う階で降りてしまいました


「こいつは・・・○年前に夢を生んだ男・・・なぜここに?」


後ろから声がしたと思い 男は振り返りました
その瞬間、目の前が真っ暗になりました



気がつくと、そこは薬のにおいがする真っ白な部屋
男は、そこで研究者と名乗る集団に全身の検査をされ、麻酔を打たれました

男は、麻酔のかかる中ぼんやりと研究者たちの会話を聞いていました


「みて!背が伸びてる!」
「当たり前だろ」
「体重も増えてるわ!」
「手も、何でもつかめるくらい大きくなったね」


「でも、目は悪くなったな これで、大切なものちゃんと見えてるのか?」
「耳も、私たちの声が、届きにくくなっちゃってる」
「瞬発力も落ちているよこれじゃいざという時にスグ判断できないな。」
「こいつの夢は今どこにいるんだ」
「心臓の動きも鈍くなってるようだ。ちゃんと定期的に動かしてやらないと」
「この人、ドキドキとかワクワクとか、ちゃんとしてるのかしら」


(ワクワク?俺、最近、いつしたっけ・・・)


その時、電話の着信音が鳴り響きました

それは、数年前の男の誕生日の夜 「女の不幸を知らされた」電話でした




女には、男に話していないことがありました

女は幼い頃から重い病を抱えていました
女は限られた時間で男に何度も読み返してもらえる小説を書きあげようと必死でした


しかし、それは叶いませんでした


駆けつけた病院で 男は女が書いていた小説を受け取りました

男は、未完成のそれを読み 初めて、女の思いを知りました


俺は、何をやっていたんだ・・・」




麻酔が切れ、男は目を覚ましました

真っ白な部屋から解放された頃 外はすっかり暗くなっていました

明かりの灯る方へ歩いて行くと 古びた酒場を見つけました


そこは「長い間、叶えることを後回しにされている」夢たちが集まる酒場でした


「どうして、ここにいるの?」


男の後ろから小さな声が聞こえました

その声の方を振り返ると 今にも倒れてしまいそうな ボロボロな子が立っていました


「俺は、自分の夢に連れてこられたんだ」


「あなたの夢に・・・?」


「君は誰なんだい?」


「僕は・・・夢だよ」


男は、驚きました
ここで会った夢たちとは何もかもが違っていたからです
その夢の目は、輝いていませんでした

男には、かける言葉がありませんでした


でも、その夢にじっと見つめられると なぜかその目を離すことができませんでした

男は、その理由に気付きました


それは、男をずっと見守っていた目でした


それは、純粋に本が好きだった日々、
文章を書くのが楽しくて楽しくて仕方なかった日々を見守り続けた目でした



その子は「自分の本を大切な人に読んで欲しい」と願った男の夢でした



気がつくと目の前からボロボロの夢の姿が消えていました

男は夢を探しに店を飛び出しました



夢が暗い森の奥に入っていくのが見え、男も後を追おうとすると 門番が男を止めました


「こんなところに来ちゃダメだよ!」


「ここは何なんですか」


「ここは、夢の処刑台よ」


夢の処刑台とは

生まれてきたけれど破れてしまった夢や 叶えてもらえなかった夢
忘れ去られた夢が集められるという場所でした


執行者の手により、夢の命を砕かれ空に放たれ 星屑にされる場所でした

諦められ忘れ去られた夢は、小さい星に
偉大だが叶わなかった夢は、大きな星となり
空のかなたで輝き続けるのでした


「こんなところで何をしてるんだ! その人にそんな話をするな!」

男をこの世界に連れてきた夢が怒鳴りながら現れました
男を森の外へ連れ出そうと手を掴みました


男は夢の手を払い

「君は、僕の夢じゃない!君は、誰なんだい?」


夢は驚き、寂しそうな目で男を見つめました

「私は・・・」



その夢は、「女の夢」でした



女が死んだ夜 その夢は、処刑台で星屑になる運命でした
しかし、夢自身が星になるのを拒み 生き続けていました


夢は、男の夢が消えてしまう前に 自分が「男の夢」だと嘘をつき
男に自分を生かしてもらおうと思いつきました


「嘘をついてごめんなさい

 私は、星になるのが恐いんじゃない でも、私が星になっても見守る相手はもういない

私はいずれ流れ星となって消えるでしょう


あの女の子はずっと私を輝かせてくれた

あんなに強く願ってくれて、幸せだった  どうしても叶ってあげたかった

忘れ去られるのは私も、あの子も、恐いのよ

だから、お願い 私と一緒に行こうよ」


夢は、男にゆっくりと手を差し出しました


男は、キラキラと目を輝かせて夢を語る、恋人の姿を思い出していました

そして、夢を見つめて言いました


「まずは、自分の夢を救ってからだ」


夢の手を静かに払い男は走りだしました


男は、森の奥深くでうずくまっていた自分の夢を見つけました

男は、手を大きく広げて 消えかけていた夢の手を力いっぱいつかみました

夢の目から涙があふれキラキラと輝きました


「一緒に行こう」




空が白くなり新しい1日が始まろうとしています


「まだ、間に合うかな」

男はつぶやきました


「ここから始まるのよ」

「この先が大変なんだ」

「ずっと、見守ってるわ」


遠くの方から声が聞こえ

雲の隙間から、虹色に輝く光が差し込みました


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●年後
2015年8月某日


新刊
『とある晩餐』
全国書店にて出版が決定



「あとがき」


僕の夢を  叶えてくれてありがとう
君の夢が  いつまでも輝きますように

作者





fin